情報掲載日:2025/07/16
【医師監修】腰痛を和らげる方法は?原因から予防法、受診の目安まで解説

腰痛は、多くの人が経験する身近な体の不調です。日本では国民の約8割が一生に一度は腰痛を経験するとされ、「国民病」とも呼ばれています。年齢や性別を問わず、誰にでも起こりうる腰痛ですが、適切な対処や予防をしないと、慢性化して生活の質を大きく下げる要因になります。

この記事では、腰痛の症状や原因、和らげる方法、予防のポイント、そして病院を受診する目安までをわかりやすく解説します。

1.腰痛の症状と原因

腰痛の症状と原因

腰痛は多くの人が経験する一般的な症状ですが、その原因は多岐にわたります。日常生活での姿勢や動作の癖、加齢による体の変化、ストレスなどが関係していることもあれば、特定の病気が隠れている場合もあります。

ここでは、腰痛の主な原因となる疾患について解説します。

腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアは、背骨のクッションの役割を果たす椎間板が何らかの原因で飛び出し、近くを通る神経を圧迫することで起こります。20代から40代の比較的若い世代に多く見られるのが特徴です。

主な症状としては、腰だけでなくお尻や足にかけての強い痛みやしびれが挙げられます。特にせきやくしゃみをしたり、前かがみになったりすると、痛みが増すことがあります。ひどい場合は、足に力が入らなくなったり、感覚が鈍くなったりするケースもあります。

椎間板ヘルニアは、重いものを持つなどの腰への負担、中腰での作業、長時間のデスクワークなどによって引き起こされるのが一般的です。

腰部脊柱管狭窄症

腰部脊柱管狭窄症は、加齢に伴い、背骨の中を通る神経の通り道である脊柱管が狭くなることで神経が圧迫され、痛みやしびれが生じる病気です。50代以降に多く見られます。

特徴的な症状は、「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」と呼ばれるものです。これは、しばらく歩くと足にしびれや痛みが出て歩きにくくなるものの、少し前かがみになって休むと症状が和らぎ、再び歩けるようになる状態を指します。

脊柱管が狭くなる原因としては、椎間板の変性、骨の突出、じん帯の肥厚などが挙げられます。症状が進行すると、安静時にも痛みが出たり、足の力が入りにくくなったりすることもあります。

骨粗しょう症

骨粗しょう症は、骨の密度が低下し、骨がもろくなる病気です。閉経後の女性に多く見られますが、男性や高齢者にも起こり得ます。

骨がもろくなると、ちょっとしたことで骨折しやすくなります。特に背骨(脊椎)の圧迫骨折は、背中や腰の痛みの原因となることがあります。圧迫骨折は転倒だけでなく、日常生活でのちょっとした動作でも起こる可能性があるため要注意です。

骨粗しょう症による腰痛は、初期には自覚症状がないケースも少なくありませんが、進行すると背中が丸くなったり、身長が縮んだりすることがあります。カルシウム不足や運動不足、喫煙、過度の飲酒などは骨粗しょう症のリスクを高めます。


2.腰痛を和らげる方法とは?

腰痛を和らげる方法とは?

腰痛の症状が出た場合、自宅でできる対処法を知っておくと、痛みを和らげることができます。ただし、痛みが強い場合や長引く場合は、無理をせず医療機関を受診しましょう。

湿布や塗り薬の使用

軽い腰痛の場合、市販の湿布や塗り薬を使うことで、痛みを和らげることができます。湿布には、炎症を抑える成分や血行を促進する成分が含まれており、貼ることで患部に直接作用します。

湿布には「温湿布」と「冷湿布」がありますが、急性の痛みや炎症がある場合は「冷湿布」、慢性的な痛みや血行不良が原因の場合は「温湿布」を選ぶとよいでしょう。どちらを選ぶか迷う場合は、薬剤師に相談することをおすすめします。

塗り薬も同様に消炎鎮痛成分が配合されており、痛みのある部分に塗ることで血行促進効果も期待できます。

温熱療法

温熱療法は、腰を温めることで血行を促進し、筋肉の緊張を和らげ、痛みを緩和する方法です。慢性的な腰痛や、冷えによって痛みが増す場合に特に有効です。

自宅では、お風呂にゆっくり浸かる、蒸しタオルを当てる、使い捨てカイロを使用するなどの方法があります。温めることでこわばった筋肉がほぐれ、リラックス効果も期待できます。ただし、急性の炎症や腫れがある場合は、かえって症状が悪化することがあるため注意が必要です。

軽いストレッチや体操

腰に負担をかけない範囲での軽いストレッチや体操は、筋肉の柔軟性を高め、血行を改善することで腰痛の緩和に役立ちます。ただし、痛みが強いときや、無理な体勢での運動は避けましょう。

例えば、仰向けに寝て両膝を抱え込むストレッチ、膝を立てて左右に倒すストレッチなど、腰に負担の少ないものから始めるのがおすすめです。これらの運動は、腰回りの筋肉をほぐし、関節の可動域を広げる効果があります。痛みを感じる場合はすぐに中止してください。

市販の鎮痛剤の活用

痛みがつらい時には、市販の鎮痛剤を服用することも選択肢の一つです。アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの成分が含まれた内服薬は、痛みを一時的に抑える効果があります。

ただし、鎮痛剤はあくまで症状を抑えるものであり、根本的な治療ではありません。また、用法・用量を守り、持病がある場合や他の薬を服用している場合は、事前に医師や薬剤師に相談することが重要です。漫然と服用を続けず、痛みが続く場合は医療機関を受診しましょう。


3.腰痛の予防に効果的な生活習慣

腰痛の予防に効果的な生活習慣

腰痛は、日々の生活習慣が大きく影響します。予防のためには、体を健康に保つための意識的な取り組みが欠かせません。

ここでは、腰痛予防に効果的な生活習慣について解説します。

姿勢の見直し

腰痛予防の基本は、正しい姿勢を意識することです。猫背や反り腰など、偏った姿勢は腰に負担をかけ、痛みの原因となります。

立つときは軽くお腹を引っ込め、背筋を伸ばし、耳・肩・股関節・くるぶしが一直線になるようなイメージを持ちましょう。座るときは深く腰掛け、背もたれに寄りかかりすぎず、背筋を伸ばして座るのが理想です。デスクワークが多い人は、椅子の高さやモニターの位置を調整し、定期的に休憩を取って姿勢を変えることが大切です。

体の使い方に気をつける

日常生活での体の使い方も、腰への負担を大きく左右します。特に重いものを持ち上げたり、かがんだりする際には注意が必要です。

例えば、床のものを持ち上げる際は腰からかがむのではなく、膝を曲げて腰を落とし、物と体を近づけてから持ち上げるようにしましょう。荷物を持つときは片方に偏らず、左右均等に持つことを心がけます。また、長時間同じ姿勢を取り続けることは避け、こまめに体勢を変えるようにしましょう。

日常の運動習慣

適度な運動習慣は、腰痛予防に効果的です。腹筋や背筋といった体幹の筋肉を鍛えることで、腰を安定させ、負担を軽減することができます。

ウォーキングや水泳、ヨガ、ピラティスなど、腰に負担の少ない運動から始めるのがおすすめです。特に腹横筋(お腹をへこませる筋肉)や多裂筋(背骨を支える筋肉)などのインナーマッスルを鍛えると、腰痛予防につながります。無理のない範囲で継続することが肝心です。

睡眠環境の見直し

睡眠中の姿勢や環境も、腰への影響が大きい要素と言えます。適切な寝具を選ぶことで、腰への負担を軽減し、質の良い睡眠を確保できます。

寝具は硬すぎず柔らかすぎない、適度な硬さのマットレスを選びましょう。体が沈み込みすぎるマットレスは腰に負担をかけやすく、硬すぎるマットレスも体の特定の部位に圧力がかかりやすくなります。枕の高さも重要で、首から背骨にかけて自然なS字カーブを保てるものが理想です。横向きで寝る場合は、膝の間にクッションを挟むと腰のねじれを防ぐことができます。

ストレスケア

ストレスは、腰痛を悪化させる要因の一つです。ストレスを感じると、無意識のうちに筋肉が緊張し、血行が悪くなることがあります。また、痛みを感じやすくなることも知られています。

趣味の時間を持つ、リラックスできる音楽を聴く、瞑想を行うなど、自分に合ったストレス解消法を見つけるとよいでしょう。心身のバランスを整えることが大切です。


4.腰痛で病院を受診する目安

腰痛で病院を受診する目安

多くの腰痛は適切な対処で改善が見られますが、なかには医療機関での専門的な診断や治療が必要なケースもあります。以下のような症状が見られる場合は、迷わず病院を受診しましょう。

痛みが1週間以上続く

腰痛が1週間以上続く場合は、自己判断せずに医療機関を受診することをおすすめします。

単なる筋肉痛や疲労によるものではなく、何らかの疾患が原因で痛みが長引いている可能性があるためです。早めに受診すれば適切な診断と治療を受けられるため、症状の悪化を防ぐことができます。

安静にしていても痛む

体を動かした時にだけ痛むのではなく、安静にしている時でも腰が痛む場合は注意が必要です。夜間や安静時にも痛みが続くような場合は、炎症が強く起きているか、内臓の病気が関係している可能性も考えられます。

麻痺症状や排せつ障害を伴う

腰痛に加えて、足のしびれや力が入りにくいといった麻痺症状、あるいは排尿・排便がしにくい、または漏れてしまうなどの排せつ障害がある場合は、緊急性が高い症状です。

これらは神経が強く圧迫されている可能性を示唆しており、放置すると後遺症が残る恐れもあります。すぐに整形外科を受診してください。

発熱や体重減少などの全身症状を伴う

腰痛と同時に、発熱、だるさ、食欲不振、体重減少などの全身症状が見られる場合も、早急な受診が必要です。これらは感染症や悪性腫瘍などの重大な病気が原因で、腰痛が引き起こされている可能性を示しています。


5.まとめ

腰痛は私たちの生活の質を大きく左右する症状です。その原因は多岐にわたり、日常生活での習慣から特定の病気までさまざまです。普段から正しい姿勢を心がけるとともに、適度な運動を取り入れ、心身のリラックスに努めることで、腰痛を予防することができます。

痛みが長引く場合や、腰痛以外に気になる全身症状がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。早期に専門医の診断を受けて適切な治療を行うことで、症状の悪化を防ぎ、快適な日常生活を取り戻すことにつながります。