
誰もが一度は経験する、お腹の痛み。食べ過ぎや飲みすぎなど一時的な不調から、命に関わる重大な病気まで、その原因はさまざまです。自己判断で放置すると危険なケースもあるため、腹痛の特徴を知り、適切な対処法を身につけておきましょう。
本記事では、腹痛の基本的な原因から痛みの種類、考えられる病気、そして自宅でできる応急処置まで詳しく解説します。
1.お腹が痛い原因
「腹痛」とひと言で言っても、その原因は多岐にわたります。最も一般的なのは、消化機能の一時的な低下によるものです。暴飲暴食や脂っこい食事、冷えやストレスなどが引き金となり、胃腸の動きが過剰になったり逆に停滞したりして痛みを生じます。
一方で、感染性胃腸炎や胃潰瘍、虫垂炎(盲腸)、腸閉塞、胆石、膵炎などのように、放置すると重症化し命に関わる病気が隠れていることもあります。女性の場合は、子宮や卵巣の疾患、泌尿器系のトラブルによって腹痛が出ることも珍しくありません。
2.腹痛のタイプ

腹痛は、痛みの性質や現れる部位によって大きく3つに分類されます。それぞれの特徴を理解することで、原因の見当をつけやすくなります。
内臓痛
胃や腸といった内臓そのものが刺激されて生じる痛みです。どの部分が痛むのかはっきりしないことが多く、鈍い締め付け感や灼けるような感覚が特徴です。吐き気や冷や汗、顔面蒼白といった自律神経の症状を伴うこともあります。周期的に強弱を繰り返す「疝痛発作」と呼ばれる痛み方も代表的です。胃腸炎や便秘、食中毒の初期段階でよく見られます。
体性痛
内臓を覆う腹膜や腹壁の筋肉が刺激されることで起こる痛みです。内臓痛とは異なり、痛む場所がはっきり分かり、ナイフで刺されるような鋭い痛みを伴います。体を動かしたり咳をしたりすると悪化するのも特徴です。虫垂炎が進行して腹膜に炎症が及んだ場合や、胃潰瘍による穿孔(穴が開く状態)で見られるなど、緊急性が高いケースが多くみられます。
関連痛(放散痛)
内臓に異常があっても、実際の痛みは別の部位に現れることがあります。例えば、胆石症では胆のうに問題があっても右肩に痛みが出たり、膵炎では背中に痛みが出たりします。心筋梗塞でみぞおちや左肩に痛みを感じることもあり、部位だけで判断できない重要なサインとなります。
3.お腹が痛い症状で考えられる病気
腹痛は痛みの部位によってある程度原因を推測できます。ただし、あくまで一般的な傾向にすぎず、自己判断は危険です。
みぞおち(心窩部)の痛み
- 急性胃炎・胃潰瘍
キリキリとした痛みが特徴で、食後や空腹時に悪化することがあります。 - 逆流性食道炎
胸やけや酸っぱい液がこみ上げる感覚を伴います。 - 胆石症・胆のう症
脂っこい食事の後に右上腹部からみぞおちにかけて強い痛みが出ます。右肩に痛みが放散する場合も。 - 急性膵炎
飲酒後などに起こりやすく、みぞおちから背中に突き抜けるような激しい痛みを生じます。
おへそ周りの痛み
- 感染性胃腸炎
下痢、嘔吐、発熱を伴うのが一般的です。 - 虫垂炎(盲腸)の初期症状
おへそ周辺やみぞおちの鈍痛から始まり、徐々に右下腹部へ移動する特徴があります。 - 過敏性腸症候群(IBS)
ストレスをきっかけに、下痢や便秘を繰り返す慢性的な腹痛が続きます。
下腹部の痛み
下腹部の痛みは、左右どちらが痛むか、また全体が痛むかによって考えられる病気が異なります。
- 右下腹部
虫垂炎(盲腸)が最も疑われます。押したときよりも離した時に痛みが響く「反跳痛」が特徴です。 - 左下腹部
大腸憩室炎や虚血性腸炎が疑われます。 - 下腹部全体
便秘や過敏性腸症候群に加え、女性では月経困難症、子宮内膜症、卵巣疾患、骨盤内炎症性疾患が考えられます。男女共通では膀胱炎や尿路結石が原因となることもあります。
4.お腹が痛い時の対処法

軽度の症状で明らかに一過性と判断できる場合には、家庭でセルフケアを行いましょう。ここでは、症状を和らげるための応急処置を5つご紹介します。ただし、改善しない場合は医療機関を受診してください。
安静にする
無理をせず横になり、楽な姿勢で休みます。衣類のベルトやボタンを緩め、体を横向きにして膝を軽く曲げる「くの字」の姿勢になると、お腹の緊張が和らぎ痛みが軽減することがあります。
お腹を温める
カイロや湯たんぽ、蒸しタオルなどでお腹を優しく温めると、血行が促進され、筋肉のけいれんが和らぎます。特に、冷えやストレスによる腹痛に効果的です。
ただし、虫垂炎や腹膜炎など、炎症が起きている病気が疑われる場合は、温めることで炎症を悪化させてしまう可能性があるため、むやみに温めるのは避けましょう。
食事を調整する
痛みがあるときは無理に食べず、消化にやさしいおかゆやスープを少量から摂りましょう。香辛料などの刺激物、脂っこいもの、アルコール、カフェイン、冷たい飲み物は、症状が落ち着くまで避けてください。
水分補給を心がける
下痢や嘔吐の症状があるときは、体から水分と電解質が失われ、脱水状態に陥りやすくなります。常温の水や麦茶、経口補水液などを、少しずつこまめに補給することが重要です。
市販薬を服用する
ストレスや冷えによる下痢など、原因が明らかな場合であれば、下痢止めや痛み止めなどの市販薬の服用によって、症状が緩和することがあります。ただし、自己判断での下痢止めや痛み止めの服用は、かえって原因を分かりにくくしたり、胃の粘膜を荒らして症状を悪化させたりする可能性があるため注意しましょう。
5.つらいお腹の痛み、我慢しないで専門家に相談を
腹痛は日常的によくある症状ですが、その原因は軽い胃腸の不調から緊急性の高い疾患まで幅広く存在します。痛みの部位や性質、伴う症状を観察し、少しでも異常を感じたら早めの受診を心がけましょう。自己判断で放置せず、正しい知識と冷静な対応が健康を守る第一歩です。