
夏の猛暑が続くなか、私たちの健康を脅かす熱中症。その予防において最も効果的なのが、適切な水分補給です。しかし、「何を、いつ、どのように飲めばいいのか」と悩む人も多いのではないでしょうか。
本記事では、熱中症を防ぐための水分補給の基本から、おすすめの飲み物、避けるべき飲料、さらには補給のベストなタイミングまでを分かりやすく解説します。
1.熱中症対策に水分補給が欠かせない理由

熱中症とは、高温多湿な環境に体が適応できなくなり、体温調節機能がうまく働かなくなることで起こる症状の総称です。体内の水分や塩分のバランスが崩れることで、めまい、頭痛、吐き気、だるさといった症状が現れ、重症化すると意識障害やけいれんを引き起こし、命に関わることもあります。
人間の体は約60%が水分でできており、この水分は体温の調節、栄養素の運搬、老廃物の排出など、生命維持に不可欠な役割を担っています。汗をかくことで体温を下げようとしますが、大量に汗をかくと体液量が減り、体温調節ができなくなります。その結果、体温がコントロールできずに体内が高熱となり、臓器がうまく働かなくなることで熱中症になるのです。
特に近年は記録的な猛暑が続いており、徹底した熱中症対策が不可欠です。適切な水分補給は、体温調節機能を正常に保ち、熱中症を予防するための最も基本的かつ重要な対策と言えるでしょう。
2.熱中症対策に適した飲み物

熱中症対策の水分補給においては、どの飲み物を選ぶかも大切なポイントです。
単に水分を補給するだけでなく、汗とともに失われる電解質(ナトリウムやカリウムなど)も効率的に補給できる飲み物を選ぶことが、体内の水分バランスを保ち、熱中症を防ぐカギなります。
経口補水液
経口補水液は、水、ナトリウムやカリウムなどの電解質を最適なバランスで配合したものです。
その最大の特徴は、体液の浸透圧に近い設計になっている点にあります。これにより、腸からの水分と電解質の吸収が非常に効率的に行われます。例えば下痢や嘔吐などで大量の水分と電解質が失われた際や、熱中症の初期症状が現れ、すでに脱水状態にあると判断される場合に特におすすめです。
医療現場でも脱水症状の改善に用いられることが多く、緊急性の高い水分補給の手段として有効です。ただし、日常的な水分補給として常用するものではなく、あくまでも脱水状態を改善するための「治療」に近い位置づけであることを理解しておく必要があります。
普段の生活で気軽に飲むというよりは、もしもの時のために常備しておくのが賢明でしょう。
スポーツドリンク
スポーツドリンクは、運動時の発汗によって失われる水分と電解質、そしてエネルギー源となる糖質を効率的に補給するために開発された飲料です。ナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウムといった主要な電解質が含まれており、これらのミネラルが体内の水分バランスを維持するのに役立ちます。
また、糖質が含まれているため、運動パフォーマンスの維持や疲労回復にも効果が期待できます。特に長時間屋外で活動するときや、激しい運動を行うときなどは、スポーツドリンクが非常に適しています。
ただし、製品によっては糖分が多く含まれているものもあるため、日常的な飲用には糖質控えめのタイプを選ぶか、水やお茶と交互に飲むなどの工夫が必要です。過剰な糖分摂取は、血糖値の急上昇や体重増加につながる可能性もあります。
麦茶
麦茶はカフェインを含まず、小さなお子さんからお年寄りまで安心して飲める、熱中症対策に優れた飲料です。
ノンカフェインのため利尿作用が少なく、摂取した水分が体内に長く留まりやすいという利点があります。また、麦にはカリウムやリン、マンガンなどのミネラルが含まれており、汗によって失われがちな電解質の一部を補給するのに役立ちます。自宅で簡単に作ることができ、経済的である点も大きなメリットです。
ただし、麦茶単体では失われたナトリウムを十分に補給することは難しいため、大量に汗をかいた場合は、塩分を含んだ飴やタブレットを併用するとよいでしょう。
3.熱中症対策におすすめできない飲み物

熱中症対策として、良かれと思って摂取している飲み物のなかにも、かえって脱水症状を悪化させたり、体に負担をかけたりする可能性があるものがあります。
アルコール類
アルコール飲料は、熱中症対策としては最も避けるべき飲み物の一つです。アルコールには強力な利尿作用があり、摂取すると体内の水分が通常以上に排出されてしまいます。そのため、一時的に喉の渇きが潤ったように感じても、結果として体はよりいっそう脱水状態に陥りやすくなります。
また、アルコールを摂取すると体温が上昇しやすくなる傾向があるため、高温多湿な環境下では熱中症のリスクをさらに高めてしまいます。
暑い日に「とりあえずビール」といった習慣がある方は、熱中症予防のためにもアルコール摂取は控えるか、量を大幅に減らすように意識しましょう。また、アルコールを飲む際は、必ず同量以上の水を一緒に飲むように心がけることも大切です。
カフェインを多く含む飲み物
コーヒーや紅茶、緑茶、ほうじ茶、ウーロン茶、エナジードリンクなどのカフェインを多く含む飲料も、アルコールと同様に利尿作用があります。
カフェインには腎臓の血流を増加させ、尿の生成を促進する作用があるため、摂取すると体内の水分が体外へ排出されやすくなります。特に多量のカフェインを摂取した場合や、水分補給がおろそかになっている状況では、脱水症状を悪化させるリスクが高まります。
日常的にこれらの飲み物を好んで飲む方は、熱中症のリスクが高まる夏場には、摂取量を控えめにすることをおすすめします。完全に避ける必要はありませんが、水分補給の主体としてこれらの飲料を選ぶのは避けましょう。
糖分の多い清涼飲料水
加糖されたジュースや炭酸飲料、甘い缶コーヒーなどは、糖分を多く含んでいます。これらの飲料を大量に摂取すると、体内の血糖値が急激に上昇します。高血糖状態になると、体は血糖値を下げようと作用し、その過程でさらに水分を必要とします。
また、糖分の過剰摂取は、肥満や糖尿病のリスクを高めるだけでなく、夏バテや食欲不振の原因にもなりかねません。一時的な満足感は得られるかもしれませんが、体の内側から熱中症対策を行ううえでは不向きです。特にお子さんや運動量の少ない方が頻繁に飲むのは避けたほうがよいでしょう。
4.効果的な水分補給のタイミング
熱中症予防においては、水分補給を適切なタイミングで行うことも大切なポイントです。日頃から以下の点に意識するようにしましょう。
喉が渇く前に飲む
喉の渇きを感じたときには、すでに体は軽度の脱水状態にあると言われています。そうなる前に、こまめに水分を摂ることが大切です。特に暑い日に外出する場合や、長時間屋外で作業する場合は、時間を決めて定期的に水分を摂る習慣をつけましょう。
起床時と就寝前に飲む
寝ている間にも、汗をかくことで体内の水分は失われます。起床時は体が脱水状態に近いので、まずコップ1杯の水を飲むことを習慣にしましょう。また、就寝前にもコップ1杯の水を飲むことで、寝ている間の脱水を防ぐことができます。
入浴前後や運動の前後・最中
入浴すると、体温が上昇し大量の汗をかきます。入浴前と後にコップ1杯の水を飲むことで、脱水を防ぎましょう。
また、運動をする際は、運動前だけでなく、運動中もこまめに水分補給を行い、運動後には失われた水分と電解質をしっかり補給することが重要です。特に激しい運動の場合は、スポーツドリンクが効果的です。
5.まとめ
熱中症は、私たちの日常生活に潜む危険な症状です。しかし、適切な対策を講じることで、そのリスクを大幅に減らすことができます。水分補給は熱中症対策の要であり、ただ水を飲むだけでなく、「何を」「いつ」飲むかが重要です。喉が渇く前にこまめに水分を摂り、汗をかいたら電解質も補給できる飲み物を選びましょう。
今年の夏もさらに暑くなることが予想されます。ご自身の体調と環境に合わせた適切な水分補給を心がけ、熱中症に負けない健康な毎日を送りましょう。