
冬の寒い日、温かいお風呂は至福のひととき。しかし、この温度差こそが体に大きな負担をかける「ヒートショック」の原因となります。ヒートショックは高齢者だけの問題と思われがちですが、近年では生活習慣病を抱える若い世代にも注意が必要です。
本記事では、ヒートショックの仕組みや起こりやすい状況・人の特徴、今日からできる予防法・対処法まで分かりやすく解説します。
1.ヒートショックとは

ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が大きく変動し、身体に強い負担がかかる現象を指します。血圧の急変により、めまいやふらつき、失神、不整脈が起こるほか、重症化すると心筋梗塞や脳卒中など命に関わる状態につながることもあります。
特に冬場は、暖房の効いた部屋から寒い脱衣所へ移動し、さらに熱い湯船に浸かるなど、短時間で大きな温度差にさらされやすい季節です。寒さを感じると血管が収縮して血圧が上昇し、逆に熱い湯に入ると血管が急激に拡張して血圧が低下します。この急激な上下動が、ヒートショックの大きな原因です。
2.ヒートショックが起きやすい状況と場所

ヒートショックは、急な温度変化があるところで起こりやすく、特に次のような状況や場所ではリスクが高まります。
入浴時
ヒートショックが最も多く発生するのは入浴時です。寒い脱衣所で衣服を脱ぐ瞬間、熱い湯船に入った直後、そして入浴後に立ち上がるタイミングは、血圧が大きく変動しやすく特に注意が必要です。
冬場の部屋の移動
起床直後の冷えた寝室から暖かいリビングへ移動する時や、暖房のないトイレに入る瞬間も、体には大きな負担がかかります。深夜や早朝は室温が下がりやすく、血圧が乱れやすい時間帯です。
サウナの交互浴
サウナと水風呂を繰り返す温冷交代浴は、意図的に大きな温度差を作る行為です。健康な人にとってはリフレッシュになる場合もありますが、高血圧や心疾患がある方、体調が万全でない場合にはリスクが高まります。
3.ヒートショックを起こしやすい人

ヒートショックは誰にでも起こり得ますが、特に以下の方は注意しましょう。
- 高齢者
加齢により、体温調節や血圧を調整する自律神経の働きが低下します。急な温度変化に対する体の対応力が弱まり、体温維持や血圧の変動を起こしやすい状態です。 - 高血圧の方
寒さで血管が収縮すると、高い血圧がさらに急上昇し、脳卒中などのリスクがより高まります。また、降圧薬を服用している方は、入浴による血管拡張と薬の作用が重なって急激な低血圧を起こしやすく、失神につながるリスクもあります。 - 糖尿病や脂質異常症がある方
糖尿病や脂質異常症は、血管の壁が硬くなる動脈硬化を進行させます。血管が硬くなると、血圧の急な変化に柔軟に対応しにくくなり、心臓や脳の血管に大きな負担がかかりやすくなります。
4.ヒートショックの予防法
ヒートショックは、日常のちょっとした工夫で予防することができます。
入浴前に家族に声掛けをする
入浴前には家族に一声かけ、入浴時間を意識してもらいましょう。万が一、長時間の入浴や異変があった際に、家族がすぐに気づきやすく、早期発見・早期救助につながります。
脱衣所と浴室の温度差をなくす
脱衣所や浴室は暖房器具を使って事前に温め、室温は18℃以上を目安にします。浴槽にお湯を溜める前にシャワーでお湯を出し、蒸気で浴室を暖めるのも有効です。
お風呂の温度は低めに設定し、長風呂しない
42℃以上の熱い湯は血圧の急激な変化を引き起こすため、38~40℃のぬるめに設定し、入浴時間は10分以内を目安にしましょう。
入浴前にかけ湯をする
湯船に入る前に、心臓から遠い手足からゆっくりとお湯をかけ、身体を徐々に温めましょう。かけ湯を行うことで、急な温度変化に対する体の反応が緩やかになり、急激な血圧変動を抑えられます。
ゆっくりとお湯から出る
湯船から出る際は、手すりなどを使い、ゆっくりと動作することが大切です。立ちくらみやめまいを感じたら、無理に動かず、浴槽の縁などに座って落ち着くまで待つようにしてください。
入浴前と入浴後に水分補給する
入浴中は大量に汗をかくため、脱水になりやすく、血液が濃縮して血栓ができやすい状態になります。入浴の前後には、コップ一杯程度の水や白湯を飲み、水分補給を徹底してください。
5.ヒートショックが起こった場合の対処法
万が一、ヒートショックの症状が現れたり、倒れている人を発見したりした場合は次のような方法で対処しましょう。
自分がなってしまった場合
- 急に立ち上がらない
めまいや立ちくらみを感じたら、浴槽の縁などに掴まり、低い姿勢を保ち、落ち着くのを待ちます。 - 気を失う前に湯を抜く
意識を失いそうになったら、溺水を防ぐために、可能であればすぐに排水栓を抜いて湯を減らします。 - 周りに知らせる
壁を叩く、大声で助けを求めるなど、周囲に異変を知らせて助けを求めてください。
倒れている人を見つけた場合
- 溺水防止と救助
浴槽内で人が倒れている場合は、最優先で排水栓を抜き、湯を捨てるか、迅速に水位を下げます。その後、ゆっくりと浴槽から引き上げ、安全で暖かい場所に寝かせます。 - 意識と呼吸の確認、救急要請
意識がない、または呼びかけに反応がない場合は、すぐに119番通報し、救急車を呼んでください。 - 保温と蘇生
意識がある場合は、体が冷えていれば、衣類やタオル、毛布などで体を温めます。もし、呼吸や心臓が止まっている場合、救急隊の指示に従って心肺蘇生を開始します。AEDがあれば使用の準備をします。
6.ヒートショックに関するよくある質問
ヒートショックに関してよく寄せられる質問をまとめました。
お風呂の温度は何度が最適?
38~40℃が最適です。この程度の湯温は、体への負担が最も少なく、血圧変動を穏やかに抑えられるとされています。42℃以上の熱いお湯は血圧の急激な上昇・低下を引き起こすため避けるべきです。
長風呂は避けた方が良いの?
はい。長時間の入浴は避けるべきです。長時間温かい湯につかることは、脱水症状やのぼせを引き起こし、心臓に大きな負担をかけます。湯温にもよりますが、10分程度を目安にしましょう。
ヒートショックを起こしやすい入浴時間は?
夕食前、日没前の入浴(午後2~4時ごろ)が比較的おすすめです。
日没後に比べ外気温が高く、脱衣所や浴室が冷えにくいことに加え、人間の生理機能としてこの時間帯が温度差に適応しやすい傾向にあるとされています。
入浴を控えた方が良い場合は?
以下の場合は、血圧の変動リスクが高まるため、体調が安定するまで入浴を控え、シャワーなどで済ませましょう。
- 飲酒後
アルコールが血管を拡張させ、入浴による血圧低下をさらに増幅させるため非常に危険です。 - 食後すぐ
血液が消化器に集中するため、心臓や脳への血流が一時的に少なくなりがちです。食後1時間程度は避けてください。 - 発熱や体調不良、睡眠不足など体力が低下している時
体の回復力が落ちているため、血圧変動に対応しにくくなります。
7.今日からできる!ヒートショック予防の徹底を
ヒートショックは、寒暖差による急激な血圧変動が原因で起こる、命に関わることもある危険な症状です。特に冬場の入浴は事故につながりやすく、日頃からの予防が欠かせません。
脱衣所や浴室を暖める、湯温を控えめにするなど、日常のちょっとした工夫でリスクは大きく下げられます。ご自身はもちろん、ご家族の安全のためにも、今日からできる対策を意識していきましょう。

